セメント治療とは

このような方に向いています

• むし歯が進行し、神経の近くまで達している
• 他院で「神経を抜くしかない」と言われた
• なるべく削らずに治療したい
• 神経を残せる可能性があるなら試してみたい

セメント治療の目的と特徴

セメント治療では、むし歯が神経に近い、あるいは神経が出てしまっているような場合に、セメント系の薬剤を置いて蓋をします。
この薬剤には殺菌力と再石灰化作用（むし歯などによって溶かされた歯が元に戻ること）があり、細菌の増殖を抑えながら、歯の中にカルシウム成分が沈着していくのを助けてくれます。
神経の周囲にバリアを作るようなイメージで、炎症を抑えながら自然に治っていくのを待つのが、セメント治療の基本的な考え方です。

セメント治療の種類と成分のちがい

むし歯の深さや神経の状態によって、使うセメントの種類も異なります。当院では、以下の2つの薬剤を症例ごとに使い分けています。

ドッグベストセメント

ドッグベストセメントは、鉄イオン・銅イオンによる強力な殺菌作用が特徴の薬剤です。
殺菌力とともに、患部の再石灰化も促す働きがあり、神経を傷つけずにむし歯の進行を食い止めることが可能です。

治療の流れ

1. むし歯のうち、感染が強い部分を慎重に除去
2. ドッグベストセメントを患部に塗布・封入
3. 被せものなどで外部から密閉し、自然な回復を待つ

一般的なむし歯治療では神経を取ってしまうようなケースでも、こうしたセメントを使うことで神経が残せる可能性があります。

MTAセメント

MTA（Mineral Trioxide Aggregate）セメントは、強アルカリ性（pH12）という特徴を活かして、高い殺菌効果を発揮します。
加えて、歯の内部にカルシウムを沈着させる「硬組織形成作用」もあるため、むし歯が神経まで達しているような状態でも再生のきっかけを作ってくれる薬剤です。

治療の流れ

1. 高濃度の次亜塩素酸水で患部を殺菌
2. むし歯に侵された部分を除去
3. MTAセメントを患部に封入
4. 石灰化と無菌化が進むのを経過観察

MTAは、根管治療でも使われる材料で、適切に使うことで「神経を残す」治療の幅を広げてくれます。

セメント治療が適応できるケース・できないケース

セメント治療は、どんなむし歯にも使える治療ではありません。
細菌の感染がすでに神経の奥深くまで進行していたり、痛みや腫れが強く出ていたりするようなケースでは、適応外の場合があります。

セメント治療の適応かどうかは、CTなどを用いた精密検査や診断によって判断されます。

当院のセメント治療の特徴

セメント治療は、むし歯が神経の近くまで進行しているときに、神経を残す可能性を広げる方法です。とはいえ、当院ではすべて「薬の力に頼ればよい」とは考えていません。
実は、セメント治療を必要としない状態でとどめることこそ、歯を守るうえで大切だと考えています。
だからこそ、当院では以下の3つの視点から、セメント治療を最後のひと押しとして活かせるように整えています。

丁寧で最小限のむし歯除去

むし歯治療でまず大切にしているのは、「健康な部分をいかに残すか」です。
歯は削れば削るほど弱くなり、寿命が縮まる可能性があります。だからこそ、当院では必要な部分だけを見極めて取ることを徹底しています。
そのために活用しているのが、歯科用マイクロスコープです。肉眼では見えにくい部分まで拡大しながら、慎重に処置を進めます。
このアプローチは、これまで当院が大切にしてきた「できるだけ削らない治療」「歯を守るための精密な技術」を実現できます。セメント治療も、この「削りすぎない姿勢」の延長にある選択肢のひとつです。

清潔な処置環境

治療の成功率を左右するのは、技術だけではありません。治療中の清潔な環境をどう保つかも、歯を守るうえで欠かせない要素です。
当院では、院内で使用する水すべてに「エピオスウォーター」を採用しています。これは、純水と食塩を電気分解してつくる高濃度電解水です。化学薬品を使わず、殺菌効果を持ち、患者さんの体にもやさしいのが特徴です。
口腔内の洗浄や、機器の水ラインにも使用しており、むし歯治療や根管治療の際に細菌の再感染リスクを抑えられます。とくにセメント治療は、封鎖後の再感染があると効果が発揮できません。だからこそ、こうした見えない部分の清潔さにも妥協しない環境を整えています。

セメントの力は補助的な手段として活用

セメント治療は、どんな症例にも使える治療法ではありません。当院では「とりあえず薬を使う」のではなく本当に「セメントを使う必要がある」と判断したときだけ、施術しています。
むし歯をどこまで削るか、神経を残すべきか、薬剤を使うべきか、こうした判断は、歯科医としての技術や経験、そして患者さんの希望を踏まえて丁寧に行います。
「根管治療を回避したい」「抜髄（神経を取る処置）をなるべく避けたい」と望まれる方にとって、セメント治療は一筋の希望となる可能性があります。
ただし、それが適した選択かどうかを見極めるには、むし歯の深さ・神経の状態・感染の有無などを、あらゆる角度から丁寧に診断・検査することが欠かせません。ご自身の歯を1本でも多く守るために、まずは一度ご相談ください。

セメント治療の費用